未経験者の翻訳通訳学習 読む書く力組み合わせ練習ヒント
翻訳・通訳学習における「読む力」と「書く力」の重要性
翻訳や通訳の学習を始めるにあたり、多くの学習者は単語や文法といった基礎力、あるいはリスニングやスピーキングといった音声面のスキル向上に注力されるかと思います。もちろん、これらも非常に重要ですが、翻訳や通訳、特に翻訳においては「読む力」と「書く力」が車の両輪のように不可欠です。
原文を正確に理解するためには高い「読む力」が必要であり、その内容をターゲット言語で的確に表現するためには、優れた「書く力」が求められます。そして、これらのスキルは単独で存在するのではなく、密接に連携しています。効果的な学習のためには、これら二つの力を意識的に組み合わせて鍛えることが推奨されます。
この記事では、未経験の方が翻訳・通訳学習で役立つ「読む力」と「書く力」を組み合わせた具体的な練習方法とそのヒントをご紹介します。
なぜ読む力と書く力を組み合わせて鍛えるのか
「読む力」とは、単に文字を追うだけでなく、文章の構造、筆者の意図、背景にある文化や知識、そして文脈を深く理解する能力です。一方、「書く力」とは、自分の考えや原文の内容を、読者や聴衆に分かりやすく、正確に、自然に伝えるための表現力です。
翻訳や通訳では、まず原文を正確に「読み解き」、その内容を異なる言語で「書き(または話し)直す」作業を行います。このプロセスでは、原文の「読む力」がターゲット言語での「書く力」に直結し、また逆に、ターゲット言語でどのように表現すれば良いかを考える経験が、原文をより深く「読む力」を高めることにも繋がります。
つまり、読む力と書く力を組み合わせた練習は、翻訳・通訳のプロセスそのものを模倣することになり、より実践的で効率的なスキル向上に役立ちます。
具体的な「読む書く連携練習」の方法
ここでは、未経験の方が取り組みやすい、読む力と書く力を組み合わせた具体的な練習方法をいくつかご紹介します。学業や仕事などで忙しい方も、スキマ時間や短時間で実践できるものを取り上げています。
方法1:原文読解+要約・言い換え練習
特定のテーマについて書かれた、ある程度まとまった文章(ニュース記事、コラム、ブログ記事など、興味のある分野のものを選ぶと良いでしょう)を用意します。
- 読む: まずは通常通り文章を読み、内容を理解します。一度だけでなく、段落ごとの要点や筆者の主張などを意識しながら何度か読むと効果的です。
- 要約・言い換え(書く): 読んだ内容を、自分の言葉で要約したり、別の表現で言い換えたりして書き出してみます。元の文章の単語やフレーズをそのまま使わず、内容の骨子だけを抽出して再構成する練習です。
- ヒント: 初めは1つの段落だけを要約する、箇条書きで要点を書き出すなど、短い範囲から始めると負担が少ないです。慣れてきたら、記事全体の要約に挑戦します。
- この練習は、原文の深い理解度を確認できるだけでなく、伝えたい内容を簡潔かつ的確に表現する書く力を養います。
方法2:短文の翻訳練習と自己評価
短い文章や数行のパラグラフを用意し、翻訳練習を行います。
- 読む・翻訳する: 原文を読み、ターゲット言語に翻訳します。この際、単語の意味だけでなく、文全体のニュアンスや背景を考慮することが重要です。
- 自己評価・推敲(書く): 翻訳した文章を、原文と照らし合わせて確認します。「原文の内容が正確に伝わっているか」「ターゲット言語として自然な表現になっているか」「もっと良い言い方はないか」などを検討し、書き直します。
- ヒント: 初めは物語やエッセイなど比較的平易な文章から始め、慣れてきたらニュースや解説文など、少し専門的な文章にも挑戦します。完璧を目指さず、まずは最後まで翻訳してみることが大切です。
- この練習は、原文を読み解く力と、それを適切な言葉で表現する書く力を同時に鍛えられます。自己評価を通じて、自身の癖や弱点に気づく機会にもなります。
方法3:表現のバリエーションを増やすリライト練習
同じ内容を伝えるために、異なる表現方法を考える練習です。
- 読む: ある文章(数行程度)を読み、内容を理解します。
- リライト(書く): その内容を変えずに、別の単語や文の構造を使って書き換えてみます。「〜なので、〜。」を「〜のため、〜。」や「〜の結果、〜。」に変えてみる、受動態を能動態に変えてみるなど、意図的に表現を変えてみます。
- ヒント: 類義語辞典やオンライン辞書、表現集などを活用すると、多くの選択肢を見つけることができます。いくつかのパターンを書き出してみて、それぞれのニュアンスの違いを比較検討すると、表現力が豊かになります。
- この練習は、読むことで多様な表現の可能性に気づき、書くことでそれらを使いこなす力を養います。特に、ターゲット言語での自然な表現の幅を広げるのに役立ちます。
練習を効果的に進めるためのヒント
これらの練習をより効果的に進めるためには、いくつかのポイントがあります。
- 継続すること: 短時間でも良いので、毎日または週に数回、継続的に練習する時間を設けることが重要です。習慣化することで、着実に力がついていきます。
- 難易度を調整すること: 最初から難しい文章に挑戦する必要はありません。ご自身のレベルに合った、少しだけ挑戦的な内容を選ぶことで、無理なく続けられます。
- フィードバックの活用: 可能であれば、信頼できる人(語学の先生や、学習仲間など)に自分の書いた文章を見てもらい、フィードバックをもらうと非常に勉強になります。客観的な視点からの指摘は、自分だけでは気づけない改善点を示してくれます。
- 目的意識を持つこと: なぜその文章を読み、なぜそのように書くのか、という目的意識を持つと、練習の質が高まります。「この記事の内容を正確に伝えるにはどうすれば良いか」「この情報を簡潔にまとめるにはどんな言葉を選ぶべきか」といった問いを常に持つようにします。
まとめ
翻訳・通訳学習における「読む力」と「書く力」は、互いに深く関連し合い、組み合わせることで真価を発揮します。ご紹介した「原文読解+要約・言い換え」「短文翻訳と自己評価」「リライト練習」といった具体的な方法を日々の学習に取り入れることで、未経験からでも着実に翻訳・通訳に必要なスキルを伸ばすことが可能です。
これらの練習は、学業や仕事との両立を目指す方でも、スキマ時間などを活用して取り組みやすいものばかりです。継続的に実践し、フィードバックを取り入れながら、ご自身のペースで力をつけていくことをお勧めします。読む力と書く力をバランス良く鍛えることが、将来の翻訳・通訳者としての確かな土台となることでしょう。